戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

2014-10-15から1日間の記事一覧

奉公と長崎の町 三

旦那様にびくびくしながらも、シイエ達はすぐに奥様の美しさに目を奪われた。花のような美しさで気のせいか花の香りまでしているように思えてならないのだ。 奥様のわきにいる子供達はぼっちゃまとお嬢様で、お嬢様はシイエ達より少しだけ年上のようだ。ぼ…

奉公と長崎の町 二

奉公先である花屋に到着した。「花幸」 掲げられた看板にはそう書かれていた。 はじめにシイエ達を迎えたのは色とりどりの美しい花々だった。田舎ではみたことがない美しい花がたくさんの桶に入って店先に並んでいる。「うわ!綺麗か花のいっぱいあるっ何の…

奉公と長崎の町 一

シイエ達が長崎の港に着いた頃にもう日が暮れていた。 初めて見る長崎の街はキラキラと灯が灯り、十歳を過ぎたばかりの二人はあまりの美しさに興奮をおさえきれずに大騒ぎ。「うわっ綺麗かね~ヨッコちゃん!田舎で見る星のごたる」「うん星のごたる」 物静…

別れ…そして長崎へ 二

足どりも軽く、教会を訪れたふたり。「神父様~こんにちは!神父様~」 シイエ達が呼ぶ声に教会の奥から笑顔で神父様が現れた。神父様はまだ幼い女の子二人を前にしてうなづきながら口を開く。 「来たな…二人とも」 神父様は今日ふたりがどんな用で来たのか…

別れ…そして長崎へ 一

シイエは今までどんなに叱られてもやらなかった家の仕事を一生懸命にこなした。おかやんと離れたらもう手伝いたくても手伝えないのだ。 シイエは幼いながらも今できることをしておきたいと考えたのだ。畑から帰ったシィエとおとやんはこんな会話を交わした。…

十歳の春 三

シイエの目はいつもにましてきらきらとしていた。「ね、おかやん。はよう助役さんの所に言うてきてよ!」 「そげん急には行かれんとよ…色々話もせんばいかんけんね、そいになぁ…隣のヨッコちゃんも一緒にってね助役さんが二人は仲良かけんて言うてくれたごた…

十歳の春 二

いつも花を枯らしてしまうシイエ。見兼ねたおかやんがシイエを諭す。 「シィエがそげんするけんか花がかわいそうかやろ?」 「そうばってん…ここにも植えたかと…どげんしたらよかと?」 シイエはただ好きな花に囲まれて暮らしたいだけなのだと涙ながらに訴え…

十歳の春 一

春は香りから始まる。今日も潮の香りが心地よい海風となり黄色い段々畑を吹き上げてゆく。ぽかぽかと暖かくなったそんな春の日でした。 「シイエー、シイエー」 シイエを呼ぶおかやんの声が聞こえる。 「シイエー!あの子はまた仕事ほったらかしてどこ行った…

まえがき

「自分の親が死ぬなど考えた事もなかった… あの日…その別れは突然に訪れるのだと思い知らされた 時の流れと共に愛しい母の記憶は ひとつ またひとつ消えて行く 自らの記憶を消さぬよう そして愛する母が生きて来た道を子供らとまたその次の世代へ残したい 幼…