戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

2014-10-16から1日間の記事一覧

奥様の顔 五

幸枝の貫禄はいつもと違う空気を作り出す。「シゲさんも元気そうね、少し歳とった?あたしもだけど…」「いえ…お幸さんはまだまだ若いです」 そこへ親分が口を挟む。「お幸…久しぶりに一緒に飲まんか!今日は俺の誕生日たい」「源さん、ごめんなさいね、今日…

奥様の顔 四

幸枝は番頭さんと二人京の間で一本一本丁寧に花を生けていく。そこへ二人の若い男がずかずか入ってきた。「なんや?こん百合は、もっとよか百合はなかったとか!花屋がこがん花ば出してよかとや!」「申し訳ありません…せめて一本一本綺麗に生けさせてもら…

奥様の顔 三

いつものように上得意には国夫自らが出向く予定にしていた。「幸枝、羽織りを出してくれ」 幸枝は何やら考え込んでいる。「幸枝!羽織り」「あ…はいはい、あなた…その花私に持って行かせてくれないかしら?」「お前がか?俺はありがたいがお前がおかっつぁま…

奥様の顔 二

二人で頭を悩ませていると店先から声がした。「ただいま戻りました」「番頭さん、ちょっとこっちへいいかしら」「はい、なにか?」 番頭さんはめったに奥座敷には入らないので随分手前で返事をしてしまった。「ちょっと入って」「はい失礼します」 なんだか…

奥様の顔 一

奥様(幸枝)も幼い頃貧しい暮らしから家族を救うため、幼くして長崎へ出た奉公人の一人だった。 類いまれな美貌から芸者の道を歩んできた幸枝だが、旦那様(国夫)に見初められ花幸の女将になるまでの道のりの険しさは計り知れない。 幸枝はその美貌と人柄から…

長崎での暮らし 五

三人は昼過ぎに店へ戻ると奥様とおキヨさんが忙しくしていた。「すいません遅くなりまして…すぐに仕事に戻りますから奥様は休まれてください」 番頭さんは慌ただしく前掛けを腰にしばりつけると店へ出て行った。「番頭さん、配達が一件あるからそっちをお願…

長崎での暮らし 四

シイエはふと田舎の神父様の話を思い出す。そうだ!教会だ!教会へ行けば姉ちゃん達に会えるかもしれない… シイエは番頭さんに話を切り出した。「ね、番頭さん田舎の神父様が大浦ってとこに綺麗な教会があるって言いよったとけど…どこか知らんですか?」「…

長崎での暮らし 三

丸山で一軒目のその料理屋には大きな庭があり、きれいに花を生けた花瓶がおかれている。見たこともない広い玄関を二人はきょろきょろしながらくぐり抜けた。「おはようさんです!おかっつぁま花幸でございます新しい奉公人のご挨拶に伺いました」「はーい」…

長崎での暮らし 二

食事も終わりに近付き奥様が口を開いた。「食事が終わったら番頭さんと一緒にこの辺りを教えてもらいなさいね。ゆっくり回ってらっしゃい」「得意先回るとも忘るんなよ」 旦那様も番頭さんに言った。「はい…旦那様わかっております」 二人は店を出て近所の…

長崎での暮らし 一

朝の光が二人の少女の顔を眩しく照らす。長崎での暮らしが始まったのである。「うーん…シイエちゃん起きらんばばい」「うん…わかっとるばってんさぁ…布団の気持ちよかけん起ききらんとさね」「そうさね、これから寝るとも楽しみになるばいね」 布団の中でそ…