戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

再会

再会 六

シイエはしばらくして炊き出しの芋を少し抱えて帰ってきた。初義はあまり口を開けられない。シイエはやわらかくふかした芋を小さくちぎって初義の口元へ運んだ。「ほら!はっちゃん食べてごらん」 初義は口を少しあけ二口だけ食べた。「もうよかとね?」「…

再会 五

初五郎は初義の姿を見て胸を詰まらせた。込み上げてくる涙を痛む喉元で飲み込みシイエに小声でつぶやく。「もうだめなのか?」 シイエはだまって首を振るだけだ。「はっちゃん、おとうちゃん帰ってきたけんね!会いたかったもんね、はっちゃん…ほら!あんた…

再会 四

初五郎は一人の女を見つけた。シイエに似ているような気がして立ち止まったのだ。 違う…女の顔は苦痛に満ちており、ひどくやせ細り視線は定まらずにいた。常に燐とした美しさをたたえていたシイエとは別人に思えた。 また辺りを探してみるも、どうしても先…

再会 三

周りはどこを見ても目をそむけたくなる風景ばかりだ。時折アメリカ兵がうろついているのが見える。初五郎はその度身を隠して自宅を目指した。 自宅付近に近付くにつれ足元はさらに熱くなり靴が焼けていく、初五郎はボロボロになりながらも歩を進める。 そし…

再会 二

初五郎は長崎へと向かっていた。幸い諫早までは汽車が通っているが、諫早からは歩かなければならない。しかし…諫早までの道程も永遠かのように長く感じられた。 大怪我で苦しみ自分を待っている家族、あるいは…どこかで野晒しになっている事まで頭をよぎっ…

再会 一

初義は小さな体でがんばって生きていた。時折うわ言のようにつぶやいている。「おとうちゃん…」 シイエは絞り出すようなその声を聞く度に胸をつまらせる。「おとうちゃん会いたかねぇ」 初義に聞こえてるのかわからないまま少し大きな声で一生懸命話しかけ…