戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

復興

復興 六

あれほど笑いに包まれていた宴席だったが、一瞬にして沈黙に包まれた。 しばらくは誰一人言葉を発する事ができなかった。源さんが沈黙に耐えきれないように口を開いた。「番頭さん…よく生きていてくれた、これからは旦那の代わりにこの店を盛り上げて欲しい…

復興 五

そんな奥様の様子を源さんだけは見逃さなかった。すかさず視線を向けた。「ヨッコちゃん…番頭さんをお風呂にいれてあげなさい」 ヨッコはその一言ですべてを悟り、静かにうなづくと番頭を奥へ連れて行った。奥様はその場にへたりこんでしまった。「大丈夫か…

復興 四

宴席に血相を変えて帰って来たシイエを見て、その場にいた全員が凍り付いた。「ヨッコちゃ…」 言いかけたところで源さんとシゲ、それに初五郎が飛び出してしまっていた。3人とも呆れるくらいに血の気が多いのだ。 シイエがヨッコの手を取り台所に駆け付け…

復興 三

その夜は親しい者を集めて久しぶりに花幸に笑い声が響いた。源さんやシゲさんの姿もある。おかよもヨッコの祝いと聞き、嫁ぎ先から駆け付けた。 ぼっちゃまは朝から働きづめだったからか、黙々と料理を口へ運んでいる。みんな飲んで食べて…たくさん笑った。…

復興 二

奥様は本当に自分の娘の事のように喜んだ。「ここもにぎやかになるわね…私も元気を出して働かなきゃ」 二人は嫁いで行ったおかよにも子供が生まれると聞かされた。奥様は興奮気味に話を続ける。「かよにもヨッコちゃんにもシイエちゃんにもまだまだ生まれる…

復興 一

家族で花幸に身を寄せ、新たな生活が始まった。絶望の淵にいたシイエにも新たな夢ができた。 自分で育てた花を自分で売りたい…ここまで経験してきた事があまりに辛すぎて、花を見る事すら忘れてしまっていたのだ。 過ぎた事は胸にしまい、少しずつ前を見て…