戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

悲しみの再出発

悲しみの再出発 五

暗くなりかけた道シイエは急いだ。早く初五郎に話がしたかったのだ。「ただいま…」「奥様は…元気やったか?」「うん…だいぶ痩せとったばい…旦那様も番頭さんもおらんで…お店の奥の部屋が空いとるけんそこに住まんかって言われた…あんたにも源さんが仕事頼み…

悲しみの再出発 四

待ちにまった奥様との再会であったが、店もまた、大変な状況にあった。旦那様と番頭さんは原爆が落ちたあの日、花農家へと出かけ、そのまま帰ってこなかったという。 心労からか奥様はやつれ、うつむいたまま小さな声で話をするようになっている。そんな奥…

悲しみの再出発 三

道すがらシイエは源さんの話を聞かされた。「親方の指示で来たんですが、花幸の方が気になっていたもんで…急で申し訳ない、後で初五郎にも来てもらいます。」 これからは鉄骨が主流の大きな建築物が増えるだろうと見越した源さんは、初五郎の職人としての腕…

悲しみの再出発 二

ただただ漠然と先の事を考えてみるも何も浮かぶはずもない。 そんな毎日がいくらか続いたある日、シイエ達の前に一人の男が現れた。男は二人を見るなり安堵の表情を見せた。「やっとみつけました!ご無事で何よりです」「シゲさん!生きていたんですね!」 …

悲しみの再出発 一

初五郎は初義の最後を看取り、そのまま外へ出て三日間行方がわからなくなった。シイエはその事を気にもとめなかった。ただただ姿が変わってゆく初義のそばで一日一日を呆然と過ごした。 時折初義の亡骸を抱き締めては、その冷たさに恐ろしい距離を感じ打ち…