十歳の春 二
いつも花を枯らしてしまうシイエ。見兼ねたおかやんがシイエを諭す。
「シィエがそげんするけんか花がかわいそうかやろ?」
「そうばってん…ここにも植えたかと…どげんしたらよかと?」
シイエはただ好きな花に囲まれて暮らしたいだけなのだと涙ながらに訴えるも、おかやんは続けた
「山ん花は山にしか咲ききらん…山に咲くけん綺麗かと…そげんできとるとよ」
二人の言い合いは続く
「そしたらこげん綺麗か花はここには植えられんと?」
「そげん事はなか、種ば蒔いて育ててみたらよかさ」
「そうばってん…ここの田舎にはそがん種売っとらん…」
「そうさな…シイエー長崎にはあっぞ」
「長崎?姉ちゃんたちがおるとこね?」
シィエの顔がぱっと明るくなった。長崎に行けば好きな花の種が買えるかもしれないのだ。
喜ぶシイエにおかやんは切り出した。
「なあシイエよう聞いてな。長崎の花屋さんにシイエば奉公に出さんかて話が役場の助役さんからきとるとさね…どがんするね?嫌やったら家におってよかとよ?」
おかやんが話終わるまえにシイエは叫んだ。
「絶対いく!」
シイエには奉公がどのようなものかわからない。無邪気にはしゃぐシイエを案ずるおかやんの気持ちなど知るよしもなく、シイエは続けた。
「ね、おかやん!うち花屋さんにいきたか!行くけんね」
「よかとね?花屋さんばってん奉公さ行くとぞ?楽しかばかりじゃなかとよ…」
「よかよか!うちは体強かし力持ちやけんどげんでもよか!花ばいっぱい見たか」
おかやんはますます心配になり、奉公に出すつもりで話を切り出したものの、なぜか行かないように説得をしているような格好になってしまった。