奉公と長崎の町 三
旦那様にびくびくしながらも、シイエ達はすぐに奥様の美しさに目を奪われた。花のような美しさで気のせいか花の香りまでしているように思えてならないのだ。
「はいはい、わかってますよ」
奥様のわきにいる子供達はぼっちゃまとお嬢様で、お嬢様はシイエ達より少しだけ年上のようだ。ぼっちゃまはまだ小さくて、奥様の後ろに恥ずかしそうに隠れては頭だけを出しシィエ達をじっとみている。
「遠い所からよくきましたね…おなかすいたでしょうね夕食はできているから番頭さんと一緒におあがりなさい…今日はゆっくり休んで明日番頭さんにこの近くを教えてもらいなさいね…仕事はゆっくり覚えてもらえばいいから」
そのやりとりをみて旦那様が初めて口を開く。
「初めから奉公人ば甘やかすな!」
二人はビクッとして二人顔を見合わせた。
シイエ達は旦那様が怖かったが、そんな旦那様を奥様は軽くあしらう。「はいはい、わかってますよ」
奥様はお手伝いさんに軽く目配せをした。
「おキヨさん食事の支度をお願いね」
「はい奥様、二人ともこちらで手足を洗いましょうね」
裏の井戸端で二人は手足を洗った。お勝手へつれていかれると、そこに並んだ食事をみて二人は思わず声をあげていた。
「うわっ」
「ごちそうやねヨッコちゃん」
「うん…こがんごちそうは正月にも食べたことなか」
二人は手を合わせゆうげの祈りをささげると、あっという間に夕食をたいらげてしまった。
二人は風呂に入り、これまたみたことがないようなフカフカの布団に寝かされた。長旅の疲れもありすぐに二人はすぐに寝息をたて…こうして奉公初日を終えた。