奥様の顔 一
奥様(幸枝)も幼い頃貧しい暮らしから家族を救うため、幼くして長崎へ出た奉公人の一人だった。
類いまれな美貌から芸者の道を歩んできた幸枝だが、旦那様(国夫)に見初められ花幸の女将になるまでの道のりの険しさは計り知れない。
その日幸枝はお茶の支度をしていた。支度を終えて奥座敷に入ると、夫の国夫が困った顔をして座敷をうろうろしていた。
類いまれな美貌から芸者の道を歩んできた幸枝だが、旦那様(国夫)に見初められ花幸の女将になるまでの道のりの険しさは計り知れない。
幸枝はその美貌と人柄から、丸山でも頂点とまで言われる地位まで登りつめた。シイエ達が生涯信頼してやまなかった幸枝は、苦労人ならではの様々な顔を持つ。
その日幸枝はお茶の支度をしていた。支度を終えて奥座敷に入ると、夫の国夫が困った顔をして座敷をうろうろしていた。
「あら、あなたどうなさったんです?」
「困った事になった…あ…あの子達は帰ってきたか?」
「はい、今し方…楽しかったそうですよ」
「そうか、明日からはうんと働いてもらわんと…」
「そんなに忙しく働かせなくても…まだおかよより年下なんですから」
「わかっとる!そいばってんそのために連れて来たとやろうが」
「私は奉公人でも自分の娘同様にします、学校へも行かせるし…お稽古ごともあの子達が望めばさせてあげます!私も小さい時から辛い思いをしてきたのです…あの子達にかわいそうな思いはさせたくありません」
「わかった、わかったから…それより困った事があると言っただろう」
幸枝の勢いに国夫はいつも負かされてしまう。しかしながら幸枝がいたからこそ、ここまで来れた事は国夫もわかりきっていた。
国夫はそわそわしながら話を続ける。「朝おれが市場に行った帰りにな…おかっつぁまの所の番頭に会って、うちに来る途中だったらしいが…予約のお客様が百合の花を五十本花瓶に飾ってほしいそうなんだ…今百合は時期はずれやし店にもなかとに…揃わんて言うたばってんなんとかしてくれと頼まれてしもうた」
「それは困りましたね…他の花ではダメなのでしょうか?それはいつまでなんですか?」
「今度の日曜だから…あと三日しかない」
「おかっつぁまのお客様で百合五十本ですか…」
幸枝は何やら思い出すような顔をして
「まさかね…」
そうつぶやいた。
幸枝の人脈は幾度となく店を救ってきた。今回も…国夫にはそんな思惑があったのかもしれない。軽い思い出し笑いを浮かべる幸枝に国夫は話を続ける。
幸枝の人脈は幾度となく店を救ってきた。今回も…国夫にはそんな思惑があったのかもしれない。軽い思い出し笑いを浮かべる幸枝に国夫は話を続ける。
「なにか思い当たる事でもあるんか?」
「いいえ…なんでもありませんよ、他の花屋さんにも伺いをたててみましょう」
二人で頭をひねりあれこれ知恵を出し合うも、策は無いかに思われた。
しかし…店の信用に関わるのだ。
「なんとしても揃えなければ」