奥様の顔 二
二人で頭を悩ませていると店先から声がした。
「ただいま戻りました」
「番頭さん、ちょっとこっちへいいかしら」
「はい、なにか?」
番頭さんはめったに奥座敷には入らないので随分手前で返事をしてしまった。
「ちょっと入って」
「はい失礼します」
なんだかこの部屋はいい香りがして落ち着かない。そんなことを考えながらも二人の様子から番頭さんは何か問題が起きた事を悟る。
店の事をよく知る番頭さんにもいい案があるかもしれない。
店の事をよく知る番頭さんにもいい案があるかもしれない。
「今の時期に百合を扱うお店あるかしら?」
「何本くらいでしょうか…」
「五十本ですって…おかっつぁまのお客様らしくて」
「料理屋で百合は匂いがきつくなかでしょうか…他の花ではダメなんですか?」
「そうよね…でも百合らしいのよ」
「それなら茂木あたりで花を作っている所へ行けばなんとかなるかもしれませんね…探してきましょうか?」
「お願いできるかしら?」
「はい、急ぐんならすぐに」
そう言うと番頭さんは店を後にした。
とにかく時期はずれの百合を探すのは容易ではなかった。番頭さんは花屋から農家まで一軒一軒まわり少しずつ本数を増やしていった。「明日また少し出せる分があるそうなのでまた行ってきます」
そうしてどうにかこうにか五十本の百合が揃った。なにせ時期外れなため最高の物は揃えられなかったがこれが今できる限界。
「仕方ない…これを持っておかっつぁまに事情を話すとしよう」
旦那様はそう言い時計をみて安堵の表情を浮かべた。