戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

学校 二

    学校へ行ける…自分が学校へいけるのだ…シイエ達は繰り返し繰り返し嬉しさを口にした。

    ある日曜日、奥様は二人を連れて百貨店を訪ると、服や鞄など、学校に行くために必要な物を全て揃えてくれた。

    夢のようだった。しばらく「奉公人」という立場を忘れてしまいそうなぴかぴかの宝物達に囲まれている。

    姉達が行った店ではこんな事してもらった話など聞いたことがない…姉達は時々苦しげな表情でシイエの元を訪れる。奥様はそんな姉達に、いつもみやげを持たせてくれたのだ。

    シイエはそれが申し訳なかった…姉達も大事ではあるが、もう来なければいいと思う事もあった。シイエはその分たくさんお店のために働いた。
 
    いよいよ学校へ通う最初の朝が来た。白すぎるブラウスと白すぎる靴下、何だか自分たちには似合わない気がする。

    シイエ達はみんなの前につまさき立ちで現れた。

「どうしたの?足痛いの?」

「いいえ…汚れるけん…ねヨッコちゃん」

「汚したらいかんけん…」

    二人の姿に皆が大笑いした。シイエ達も笑った。二人は希望で胸がいっぱいで倒れそうだ。

    学校へは奥様が一緒に行ってくれた。

「よろしくお願いします」

    奉公人の自分達のために先生に頭を下げてくれる奥様をみて、二人は頑張らなければと強く思った。

    二人は同じクラスに入り、始めはもじもじして皆からキョロキョロ見られた。

「奉公人のくせに学校来てよかとか!働け」

    覚悟はしていた反応だがヨッコちゃんは泣きそうだ。その点勝ち気なシイエは違う。相手が金持ちだろうが、自分より体が大きな男の子だろうが、自分が正しいと思った事は遠慮せずに言葉にしていく。

    何日か経過した頃、シイエ達の周りには常に笑いが絶えないようになっていた。長崎の子供が知らない田舎での遊びの話が皆をひきつけていく。

    二人の学校生活は充実していった。シイエ達は学校も仕事も一生懸命にこなした。せめて奥様に恥ずかしい思いをさせないように。

    自分達は立派な人間にならなければいけない。お世話になっている「花幸」のためにも。