シイエの初恋 一
あれから何度か春が来て…また冬がきて、季節がいくつかめぐり、二人の幼かった少女は立派な女性に成長していた。
その間、花幸の奥様は、花屋に奉公する以上はこれだけはとお茶にお花…果ては日本舞踊までふたりに稽古事をさせていた。
結果…十代も後半に差し掛かる頃には誰もが振りかえるくらいの女性になっていたのだ。知らない人が見ると誰も奉公人だとは思わない。
二人は「花幸」で奉公をしている事に誇りをもっており、高貴な雰囲気さえ感じられた。
その頃には仕事も完璧にこなしており、二人は奉公人としての評判も高かった。また、奉公人を育て上げる力量ある女将として、幸枝の評判も上がり、店は得意先をふやしていった。
おかっつぁまは二人を自分の店に来させようとあれこれ手を尽くしてきたが、二人をつなぎ止めるものは「花幸」への愛情だった。
大好きな奥様に精一杯自分達ができる恩返しをしたい…その想いが二人を成長させたのだ。
そんな中、人として成長する過程で様々な感情も芽生えて当然の事、シイエはとある男性に密やかな想いを寄せていた。
シイエ達が二人の時はいつも夢を語った。小さい店でも自分達で花を売りたいとも話した。 いつものようにおしゃべりを楽しむ二人だったが、シイエが突然だまって何やらもごもごと言い出した。
「なん?シイエちゃん、はっきり言わんばわからんやかね」
「あのさ…ヨッコちゃん、あの人いつも男の子二人連れて店の前を通るとけど…奥さんおらんとやろうか」
ヨッコが外を見ると、穏やかな顔で子供らに話しかけながら歩く男性がみえた。
「馬鹿やね、シイエちゃん…どこの誰かもわからんとにあの人が気になると?」
「そうばってんさぁ…」
男まさりのシイエだったがここはやはり女性である。シイエ自身自分の気持ちに戸惑いは隠せない。