シイエの初恋 二
ヨッコに自分が抱える想いを話せた事でなんとなく楽になったシイエ。その後は毎日の仕事に追われ、その事はあまり考えないようになっていた。あの男性も店の前を通らなくなっていた。
ある日ヨッコが慌ただしく店に戻りシイエに言った。
密やかな恋がシイエを締め付ける。シイエの性格は男まさりで行動派、思い付いたらすぐに体が動き、正しいと思った事は相手が誰であろうとぽんぽんと口に出す。
ある日ヨッコが慌ただしく店に戻りシイエに言った。
「シイエちゃん、あの人奥さんが近くの病院に入院してて…なんかひどい病気らしいと、今危なからしか」
「誰がそげん話ばしたと…」
「店によう来るおしゃべりなおばさんたい、毎日妹さんに子供預けて仕事行って病院行って帰りに子供迎えに行って帰るとげな…男の人とに仕事も子育ても全部ひとりでしよるって…かわいそうかね」
今まではただ気になる人に過ぎなかったが、そんな話を聞いてしまったシイエは仕事も手につかないほど男性の事ばかり考えてしまうようになってしまう。
ヨッコは自分がいらぬ話をしたと悔やんでいた。明らかに様子が違うシイエにわざと仕事の話ばかりしていた。
ヨッコはなんとかシイエの気をそらそうと手を尽くしたが…シイエはぼんやりする事がどんどん増えていく。「シイエちゃん!あの人はダメよ!奥さんがおるとやけんね…ほら!春の種ば出してきて」
「あ…そうやね、馬鹿やね…さて、仕事仕事」
ヨッコは諦めさせたと考えていたがシイエの心は決まりつつあった。好きなものは仕方ない…想い続ける事だけなら罪にはならないはずだと…
密やかな恋がシイエを締め付ける。シイエの性格は男まさりで行動派、思い付いたらすぐに体が動き、正しいと思った事は相手が誰であろうとぽんぽんと口に出す。
しかし今回ばかりは違う。
あの人のお手伝いがしたい…見ず知らずの自分が行けば当然ながら嫌われてしまう。
好きだと叫びたい…奥さんがいる人だからそれは神様が許してはくれないでしょう。自分の中に渦巻く激しい感情を抑えなければならない状況に初めて置かれたシイエは苦悩した。
そして…ものわかりがいい自分を恨んだ。
シイエが初めて知る「片思い」の苦しみである。