戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

シイエの初恋 三

    ある朝シイエが朝食の手伝いをしていると、外を掃除していたヨッコが血相を変えて入ってきた。

「シイエちゃん!ちょっと…」

「何ね?今忙しかと」

「よかけん早う来んね」

    ヨッコがシイエの腕を掴み外へ連れ出す。

「あの人の奥さん亡くなったげな…」

「うそやろ…」

   シイエは単純に男性の心中を察して目頭が熱くなった。

「本当って…どがんするね?シイエちゃん…もう奥さんおらんとよ好きとやろ?」

「馬鹿じゃなかとね…こがん時に…亡くなったばかりとに!そいに死んだ人にはどげんしたって勝ちきらん…もうダメばい」

「諦めるとね?」

「諦めるとか…元々何もなかとやけん…ほら!今日は稽古の日ばい!はよう片付けして行かんば」

    シイエは自分に言い聞かせるように言葉を発し、後黙々と仕事をこなした。
 
    シイエは想いを押し殺す事にした。忙しい日々は余計な考えを遠ざけてくれる。体を動かせるだけ動かし人の仕事までこなしていった。

    ヨッコもそんなシイエを見て、できる限り違う話をしようと努めた。そうして気を紛らせ時間だけが過ぎていった。