出会い 一
「おキヨさん、ちょっといいかしら!」
奥の部屋から奥様のおキヨさんを呼ぶ声がする。
「はい、ただいま」
しばらくして奥様は喪服で現れた。
「いってらっしゃいませ…」
シイエ達もおキヨさんと共に奥様を送り出す。
「おキヨさん、奥様誰かのお葬式ですか?」
「なんでもおかっさまのとこのお客様らしか…知らない人でもないから顔は出しておきたいって」
まさかね…とシイエは思うもそれ以上は聞かなかった。
その日稽古帰りのシイエは遠くにあの男性をみつける。恋に免疫がないシイエにはすれ違うだけで大事件なのだ。少し手前で立ち止まり呼吸を整える。するとなぜか男性も立ち止まった。
そばに来た時シイエは思い切って頭を下げた。まともに顔も見ず頭をさげたまま言った。
「この度は奥様の事…あの…お悔やみ申し上げます」
「自分達の事しっていたんですか?」
「いえ…ちょっと耳にしておりまして…すいません」
「それはどうも…何とか落ち着き色々お世話になった方々にご挨拶に伺ったところなんですよ…では失礼します」
そう言うと男性は急ぎ足で去っていった。
店に戻ったシイエはいつもに増してぽーっとしている。そんな様子にヨッコもおかよも顔を見合わせていた。「シイエちゃん!大丈夫ね?」
シイエはずっと憧れていたあの男性と話ができたことが嬉しくて仕方なかった。彼は奥様が亡くなった後、妹さんに二人の子供を預けて仕事をしている。その妹さんも体が弱いため、上のお兄ちゃんがしっかり弟の面倒をみているらしい。
彼は両親を早くに亡くし、今は息子達と妹と四人で暮らしているらしい…シイエはそんな大変そうな話を聞く度、いてもたってもいられない気持ちになっていた。
シイエが想いを寄せる男性は源さんの一番のお気に入りだった。彼を気にかけていつも仕事を回していた。
シイエが想いを寄せる男性は源さんの一番のお気に入りだった。彼を気にかけていつも仕事を回していた。
落ち着いた頃に源さんは彼の子供の世話役にと、たくさんの縁談をもちかけるが、彼は断り続けた。
しびれを切らした源さんが彼につめよった。
「なんか…気になる女でもおるとか?」
「はあ…いると言えばいますね…」
「なんか、誰や!」
「花幸で奉公をしとります」
源さんはおかっさまが欲しがっている女が花幸にいることは知っていたが、まだ見た事はなかった。女に目もくれない奴が気になると言い、おかっつぁまが是非とも芸者にしたいとまでかたる女性が花幸にいる。
源さんは途端に興味が湧いた。
「よし!席を設けてやる」
「いえ…自分は…気持ちがなんというか」
「まだ早いか?奉公人は逃げんしな、あそこの花屋とは顔なじみでな、俺にまかせろ」
体の弱い妹と二人の息子…一度言葉を交わしただけの人が来てくれるわけもない。二度目の嫁取りとなるとやはりあれこれ考えてしまうのだ…