出会い 四
朝は誰よりも早く起きて朝食の支度を済ませ、昼間は学校に工場、店の仕事に稽古まである。忙しい毎日に暇をみつけてはシイエは愛しい人の家へ通い続けた。
次第に彼の妹もシイエに気をゆるし自分達の事をあれこれシイエに話して聞かせた。彼女は名前をハルと言った。五島で生まれ父親が肩代わりした借金のせいで五島をおわれ平戸に移ったこと、それからまだ幼いうちに長崎市内の西山に移り住んだ事、両親とたくさんの兄弟に囲まれた幸せな暮らしも長くは続かず今はたった二人の兄妹になった事…
シイエは聞けば聞くほどますます自分ができることは何でもしたいと強く感じるようになっていった。
ハルがちいさくつぶやいた…
ハルがちいさくつぶやいた…
「兄は私達を育てるために学校もいかず小さい頃からずっと働いてます…造船の仕事も自分で覚えたんですよ…今では長崎でも一番と言われる船大工です」
源さんにいい仕事を回してもらい助かっているという。
ハルはシイエの存在で体の負担も減り次第に体調もよくなった。シイエと一緒にだいたいの事はできるようになったのだ。
彼も最初は訝しげではあったが…シイエが来ていない日には少し寂しく感じるようになっていた。
奥様はそんなシイエの様子を見てこのままでいいのかと考えていた。旦那様と相談の上、源さんに頼み二人を正式に引き合わせる手筈を整えた。 おかっつぁまの店で二人は正式にその日をむかえる事となる。シイエには奥様と旦那様が付き添い、彼には源さんが付き添った。
まず二人の紹介があり、旦那様はシイエが幼くして店に奉公にくる経緯や、店に来てから娘のように育てた事などを詳しく話した。
源さんも彼について詳しく話した。自分を犠牲にして家族に尽くすよき兄であり、よき父であること。
そしてこのときシイエは初めて彼の名を知る。
「永瀬初五郎」
いくどとなく家に通ってはいたが、まだ名前すら知らなかった事にシイエ自身驚いた。この時「彼」は「初五郎さん」となったのだ。初五郎の二人の息子はそれぞれ政雄と初義といった。
それから二人はしばらくこれまで通りの暮らしを続けた。長崎も戦場になる危惧があること、婚姻がなされると赤紙がくることなどが理由である。
これまで二人の子供の養育を理由に、初五郎は兵役を逃れていたのだ。
やがて二人の気持ちも決まるとシイエは初五郎の家で暮らし始めた。