夢にまで見た暮らし 三
おかやんが少し寂しげに呟いた。
「おまえがお産の近うなったら行くけんな」
「ありがとう、おとやんもおかやんも体に気をつけてね」
すぐに会えるのだからと、挨拶もそこそこにシイエは田舎を後にした。
長崎に戻るとハルがひとりで家を守っていた。またみんな一緒に暮らせるのだと二人は抱き合って再会を喜んだ。
ハルの体調も随分よくなり、女二人で力を合わせて初五郎の留守を守っていった。
正月がきてシイエのお腹の子も随分大きくなった。産み月まではまだ暇があったため、シイエはお産の準備や店の仕事に追われていた。 やがて臨月を迎えるときがきた。昭和二十年六月、シイエは元気な男の子を出産した。
手伝いに来ていたおかやんがシイエの顔と赤ん坊の顔を交互にみながら言った。
「あら?また男の子やかね」
「またって…おかやん…うちは初めてやけんね」
「そうやった、三人目かと思うたばい」
そばにいた皆が大笑いをした。産後の回復も早く、乳の出もよく、生まれた赤ん坊も二か月を迎える頃には丸々と太っていた。
赤ん坊を見た初義は満面の笑みを浮かべてシイエの服を引っ張った。
「かわいかね、おかあちゃん!はっちゃんとおんなじ名前ばつけて」
シイエも自分が産んだ息子と分け隔てなく育てたい想いから初義から一字とり、義輝と名付けたのだった。
政雄も初義も義輝をとてもよく可愛がった。新しい家族を交えて幸せな時間が流れていた。