原爆の惨劇 四
やっと下まで降りてきたシイエは人影をみつけた。そこは小さい防空壕で、何人かの生き残った人達が身を寄せあっていた。
その人らもシイエ達を見るとてまねきをした。近付くと初義のために場所を開けてくれたが、あまりの悪臭にシイエ達は激しく嘔吐した。
これまでに吸い込んだ煤であろうか…家族の吐瀉物はまるで墨汁のように黒く、シイエは自分たちの体が今どうなっているのか恐怖した。
側に居た初老の紳士が口を開く。
「大丈夫、それを吐き出した者は皆具合がよくなりよりますけん」
確かに皆一様に体が軽くなるのを感じた。
シイエは義輝を産んですぐに働き出した事もあり、産後の出血も残っていた。髪はやけこげ衣服もほとんど焼け落ちている事に人前に出て初めて気がついた。
シイエは義輝を産んですぐに働き出した事もあり、産後の出血も残っていた。髪はやけこげ衣服もほとんど焼け落ちている事に人前に出て初めて気がついた。
そばにいた女性が衣服を差し出しシイエを井戸に連れていく。シイエは有り難く礼を言い体を綺麗にして子供の元へ戻った。衣服とはいえあちらこちらやけこげている。
「あの…何がどうなったとですか…」
「ようわからんとです…ただ…逃げる暇すらなかったもんですけんね、原爆ではなかろうかと…」
「原爆…広島の…広島と同じとですか!」
そこで生きている人は皆がボロボロであった。これからどうしたらいいものか…小さな防空壕の中は絶望に満ちていた。
太く丸々と太っていた義輝も日を負うごとに痩せていく。泣く事も少なくなり小さい体で辛うじて生きているという感じであった。 政雄は火傷は負っているものの元気だった。初義は相変わらず寝たままの状態で死んでいるのかと思うほどだ。呼吸はしており時折指先が動いている。
変わり果てた風景、苦しむ人々、息子達が味わっている苦痛…
神様はなぜこんな惨いことをする…この信者が多い長崎の地に…
シイエは生まれて初めて神を恨む。そしてそれ以来神を信じる事はなかった。
シイエは壕の外から聞こえる子守歌に吸い寄せられるようにフラフラと外に出た。原爆が落ちてどのくらい経ったのだろう。外に赤ん坊をあやす女性の姿があった。
シイエは壕の外から聞こえる子守歌に吸い寄せられるようにフラフラと外に出た。原爆が落ちてどのくらい経ったのだろう。外に赤ん坊をあやす女性の姿があった。
同じ境遇だとシイエは話かけようと近寄るが… 赤ん坊の頭には木ぎれが突き刺さり、すでに皮膚は紫に変色して死んでからいくらか時間が経っているようだった。
初老の男性が彼女に近付き何やら話している。彼女は赤ん坊を取られると思い、必死で赤ん坊を抱き締める。男性がしゃがみ込み優しく諭すように話しかけた。
「奥さん…この子は暑くてかわいそうかけんね…綺麗にしてあげよう」
そう言ってようやく赤ん坊を女性から受け取った。赤ん坊は周りにいた人々が丁重に葬った。