原爆の惨劇 六
何をみても平気だと、そう思う事でシイエは自分自身を支えてきたのかもしれない。しかし、時折言い知れぬ恐怖心がシイエを襲っていた。
上空で米軍機が旋回を続けている。そのときシイエには憎き敵という感覚は不思議となかったものの、ただただエンジン音に敏感になっていた。
上空で米軍機が旋回を続けている。そのときシイエには憎き敵という感覚は不思議となかったものの、ただただエンジン音に敏感になっていた。
無意識に丘の上へ走り出す。丘の上へ着いた瞬間様々な感情が溢れ出した。苦しむ息子達の姿、見つけられなかったハルの最後にあった時の顔、田舎の両親…
そして…出征以来会っていない愛しい初五郎の顔。
シイエは旋回する米軍機に向かって叫んだ
「殺せーっ!!」
米軍機は飛び去りシイエはその場に崩れ落ちた。
最悪な環境に置かれてはいても家族は行く場所がなかった。満足な手当ても受けられないまま時間だけが過ぎていく。米軍機は飛び去りシイエはその場に崩れ落ちた。
周りの人々と同様にシイエも初義から這い出す蛆を摘み出しては潰す、他の時間は義輝に乳を与える。
もうシイエは祈る事をしなくなった。祈ったところでなにが変わるというのだ…ただ呆然と生き長らえているだけに思えた。
シイエは時間と共に話す事をやめていった。