再会 二
初五郎は長崎へと向かっていた。幸い諫早までは汽車が通っているが、諫早からは歩かなければならない。しかし…諫早までの道程も永遠かのように長く感じられた。
大怪我で苦しみ自分を待っている家族、あるいは…どこかで野晒しになっている事まで頭をよぎった。
兵役についている以上人の死ぬ姿は見慣れているつもりだったが、自分が知る空襲とは明らかに違うのだ。目玉が焼け落ちた馬が暴れあちこちにぶつかり、木々は立ち枯れたまま木炭になっている。
犬が…猫が…そして人間が、川や畑…あちらこちらで息絶えごろごろと転がっている。家もなにもなく本当に焼け野原だった。
火傷で垂れ下がった皮膚を地につけぬよう肘を曲げ幽霊のように歩く人々があちらこちらにいる。
まさにそこにあるのは地獄、初五郎はしばらく自分の目で見た現実を受け入れられずに呆然としていた。
初五郎は思った。「これは…本当にダメかもしらん」
その地獄の中に足を進める勇気がない。あきらめかけて座り込んでしまった。しばしその場で頭を抱えていたが思い直し自分の家がある方角へ一歩一歩足を進めて行く。
焦土から沸き上がる熱気で汗まみれになりながら、目を見開き少しずつではあるが確実に地獄の中へと入っていったのだ。
この地獄の中に家族が居るのだとしたら…救えるのは自分しかいないのだと。
この地獄の中に家族が居るのだとしたら…救えるのは自分しかいないのだと。