戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

再会 三

    周りはどこを見ても目をそむけたくなる風景ばかりだ。時折アメリカ兵がうろついているのが見える。初五郎はその度身を隠して自宅を目指した。

    自宅付近に近付くにつれ足元はさらに熱くなり靴が焼けていく、初五郎はボロボロになりながらも歩を進める。

    そしてついに自宅があったであろう場所へと辿り着いた。

    家もなにもそこにはなく、当然ながら家族の姿はない。逆に言えば…遺体はその場所にはなかったのだ。

    焼けて熱くなった土地を掘り返してもみた。わずかばかりの家財道具の焼け残りがでてくるだけだった。

    初五郎はあらゆる人に話を聞いた。まともに話せる相手にすらなかなか巡り合えない。ようやく人の集まる場所を見つけ話を聞く事ができた。

「若い女と子供が二人…赤ん坊もいるはずです!誰か見ませんでしたか!」

「多分あの人でしょう…子供の怪我が重くて、歩いて立山の病院へ向かうと言っておりましたが…」

    立山…まだ歩かなければならないのか…しかし初五郎は諦めるわけにはいかなかった。  
 
    靴底は焼けてしまい熱い。とにかく足が痛かった。

「あの子らはもっと痛い思いをしている」

    そう思いとにかく歩いた。そこからさらに二日かけて病院に辿り着く初五郎。

    あたりは処理を待つ遺体が異臭を放ち、人々の呻き声と泣き声が響き渡る。目も当てられないくらいの怪我をし、体中を蛆に喰われるがままの人々がたくさんいる。これでも病院かと言わんばかりの光景だ。

    初五郎はひとりひとりの顔を覗きこみシイエを探した。