再会 五
初五郎は初義の姿を見て胸を詰まらせた。込み上げてくる涙を痛む喉元で飲み込みシイエに小声でつぶやく。
「もうだめなのか?」
シイエはだまって首を振るだけだ。
「はっちゃん、おとうちゃん帰ってきたけんね!会いたかったもんね、はっちゃん…ほら!あんたも声ばかけて」
「とうちゃん帰ってきたぞ!初…元気ばだせ!とうちゃんが助けてやるけんな」
シイエに促され、初五郎は震えながら声を絞り出した。その懐かしい声を聞き、初義の唇がかすかに動いた。初義の瞼は焼け、落ち窪んでいる。恐らく二度と見えることはない。初五郎は初義の口元に耳を近づけた。
「おとうちゃん…おかえり…」
か細く、弱々しい声で初義は呟いた。
初五郎は溢れる想いのまま、夢中で初義を抱き締めようとした。しかし、それはかなわなかった。
初五郎は溢れる想いのまま、夢中で初義を抱き締めようとした。しかし、それはかなわなかった。
抱き締めようとしても体の皮はずるずると剥げ、少しでも触ると壊れてしまいそうだ。
「あぁ…神様…どうしてこの子をこんな惨たらしい姿にしてしまったのですか…この子が何をしましたか…この子は人一倍優しい子だったのに…」
痛いとすら言えない息子の苦しみを思うと、初五郎は胸をかきむしられる思いだった。初五郎もまたシイエ同様に神を憎んだ。
耐え難い現実に震えがおさまらない初五郎、目が見えない息子に自分の存在を知らせるため、必死で言葉を紡ぎだしていった。「初…がんばれよ!とうちゃん来たけんな!もう心配すんな」
目には大粒の光るものがあった。初五郎は何もしないことが何より苦痛だった。なにかしないと、自分になにができる…食べる物くらいしか思い付かなかった。
「初…なんか食べたかとはあるか?」
「芋でよかぁ…」
「芋か!よし食べさしてやるけんな」
そのやりとりをそばで聞いていたシイエは急いで外へ飛び出していった。何かを食べたいと初義が言葉にしたのは原爆が落ちてからはじめての事。
きっと父親が帰ってきたから元気になったのだ、食べるようになれば助かるに違いない、シイエは嬉し涙を拭い、走り回った。
きっと父親が帰ってきたから元気になったのだ、食べるようになれば助かるに違いない、シイエは嬉し涙を拭い、走り回った。