悲しみの再出発 四
待ちにまった奥様との再会であったが、店もまた、大変な状況にあった。旦那様と番頭さんは原爆が落ちたあの日、花農家へと出かけ、そのまま帰ってこなかったという。
心労からか奥様はやつれ、うつむいたまま小さな声で話をするようになっている。そんな奥様の様子を見ていると、シイエは涙せずにはいられなかった。
ヨッコがシイエの脇に来て下を向いて手を握り締める。奥様とヨッコは愛する者を同じ日に亡くした女同士で、身を寄せあってひっそりと生きていたのだ。
再会の喜び、遺された者同士の同じ気持ち、そして旦那様や番頭さん、皆で様々な想いが交錯する中、抱き合って泣いた。
奥様が重い口を開く。
奥様が重い口を開く。
「シイエちゃん…またここで一緒に暮らしてちょうだい」
源さんが初五郎を欲しがっているように今の奥様にはシイエが必要だった。
「奥様ありがとうございます…でも今私はひとりではありません…主人も、初義は亡くなりましたが二人子供がおります」
「初義ちゃんが…」
声を詰まらせる奥様にシイエは話を続けた。
「政雄は怪我をしとりますが、皆元気です」
「それならここに来て…源さんが仕事を手伝って欲しいそうだし…早い方がいいでしょう」
奥様の話が終わった瞬間、下を向いたままだったヨッコがシイエにしがみつく。
「シイエちゃん…お願い」
「ヨッコちゃん…」
シイエはヨッコを力いっぱい抱き締めた。
「ただいま戻りました」 背後に立つ若者にシイエはギョっとした。番頭の前掛けをしていたからだ。
「シイエさんおひさしぶり」
「ぼっちゃん?びっくりしたじゃなかですか…ご立派になられて」
シイエ達が店にきた日に奥様の後ろに隠れていた小さな男の子…幸太ぼっちゃまだ。
確か原爆投下前には学生で、まだ子供に見えていた。
「男は自分ひとりですけんね…実は赤紙も来てたんですがね…出征前に戦争は終わりました。」
幸太ぼっちゃまは今は与えられた命を母のため、店のために使いたいと話した。
「奥様…ぼっちゃま…主人と話をしてまた来ますね」
そう告げるとシイエは遅くなる前にと帰りを急いだ。おキヨさんが持たせてくれたたくさんの食べ物を抱えて…