戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

悲しみの再出発 五

    暗くなりかけた道シイエは急いだ。早く初五郎に話がしたかったのだ。

「ただいま…」

「奥様は…元気やったか?」

「うん…だいぶ痩せとったばい…旦那様も番頭さんもおらんで…お店の奥の部屋が空いとるけんそこに住まんかって言われた…あんたにも源さんが仕事頼みたからしか」

「旦那様と番頭さんがか…原爆か?」

「そうみたい…」

「奥様も辛いだろう…なんにしろ仕事があるのは有り難い、仕事なら何でもする…早く話しに行こう」

「それなら奥様のとこでお世話になろうか?」

「そいはよかばってん…なるだけ早うしよう、よかごと話するけん少し待っとけ」

    シイエの気持ちは決まっていた。またあの店で花に囲まれて働きたい、その想いが強かったのだ。


    今は生き残った者で家族を、人生を、そして町さえも再構築するしかないのだ。立ち止まっている暇などない。

    「あんた…また、前のごと…普通に暮らせるとやろか…」

    「わからん、そいばってん、やるしかなか」

    シイエは無意識に唇を噛んでいた。固い決意の現れである。どれだけ苦労しようとも、あれ以上の苦しみはないのだからと。