戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

復興 一

    家族で花幸に身を寄せ、新たな生活が始まった。絶望の淵にいたシイエにも新たな夢ができた。

    自分で育てた花を自分で売りたい…ここまで経験してきた事があまりに辛すぎて、花を見る事すら忘れてしまっていたのだ。

    過ぎた事は胸にしまい、少しずつ前を見て生きていこうと思い始めていた。源さんのおかげで初五郎の仕事も軌道に乗り、二人の子供も日に日に元気になり、以前のような生活が戻りつつあった。

    シイエは辛い過去を振り切るように毎日を忙しく過ごした。店の仕事に子育て、働いていると気が紛れるのだ。

    ヨッコも奥様もお互いの伴侶を思い出す瞬間もたくさんあるはず、しかし毎日を忙しく明るく振る舞っていた。

    そんなある日、ヨッコが青い顔で仕事をしている事にシイエが気付いた。

「ヨッコちゃん…赤ちゃんじゃなかとね?」

「うん…あの人の生まれ変わりかもしれん…神様が授けてくれたとかもしれん」

「馬鹿…生まれ変わりとかまだ帰ってくるかもしれんやろ?諦めたらいかん」

「そうばってん、もう何日になるね?今まで帰って来んとに…花農家…原爆が落ちた近くにおったとよ?あの人は…どこにもおらん…もうどこにもおらん…」

「ヨッコちゃん…」

    シイエは言葉を詰まらせ、ヨッコの手を握りしめた。気がつくと…どちらからともなく、しばらく隠していた涙を二人で流していた。



    シイエとヨッコは幼い頃から姉妹のように育った。ヨッコがこの先幸せになるにはどうそたら…

「赤ちゃんの事奥様には話した?」

「いいや…奥様もあんなあるとに言いきらん…」

「馬鹿ね!こがん時やけんめでたい事は言うとばい…一緒に言うてやるけん早う!」

    シイエはヨッコの手を掴み奥座敷へと走った。

「奥様っ!今お話しできますか?」

「いいですよ、どうしたの?お入りなさい」

    部屋に入ると二人は押し問答だ。

「二人揃ってどうしたの?」

「ヨッコちゃん!ほら、自分で言うとよ」

    シイエに促されヨッコはうつむいたまま言った。
 
「うん…あの…赤ちゃんができました…」

    奥様の顔がぱあっと明るくなっていった。

「本当なの?」

    奥様の言葉にヨッコが小さくうなずく。

「よかった、よかったヨッコちゃん!おめでとう…」

    奥様は力一杯ヨッコを抱き締めて心の底から喜んだ。