復興 一
家族で花幸に身を寄せ、新たな生活が始まった。絶望の淵にいたシイエにも新たな夢ができた。
自分で育てた花を自分で売りたい…ここまで経験してきた事があまりに辛すぎて、花を見る事すら忘れてしまっていたのだ。
シイエとヨッコは幼い頃から姉妹のように育った。ヨッコがこの先幸せになるにはどうそたら…
自分で育てた花を自分で売りたい…ここまで経験してきた事があまりに辛すぎて、花を見る事すら忘れてしまっていたのだ。
過ぎた事は胸にしまい、少しずつ前を見て生きていこうと思い始めていた。源さんのおかげで初五郎の仕事も軌道に乗り、二人の子供も日に日に元気になり、以前のような生活が戻りつつあった。
シイエは辛い過去を振り切るように毎日を忙しく過ごした。店の仕事に子育て、働いていると気が紛れるのだ。
シイエは辛い過去を振り切るように毎日を忙しく過ごした。店の仕事に子育て、働いていると気が紛れるのだ。
ヨッコも奥様もお互いの伴侶を思い出す瞬間もたくさんあるはず、しかし毎日を忙しく明るく振る舞っていた。
そんなある日、ヨッコが青い顔で仕事をしている事にシイエが気付いた。
「ヨッコちゃん…赤ちゃんじゃなかとね?」
「うん…あの人の生まれ変わりかもしれん…神様が授けてくれたとかもしれん」
「馬鹿…生まれ変わりとかまだ帰ってくるかもしれんやろ?諦めたらいかん」
「そうばってん、もう何日になるね?今まで帰って来んとに…花農家…原爆が落ちた近くにおったとよ?あの人は…どこにもおらん…もうどこにもおらん…」
「ヨッコちゃん…」
シイエは言葉を詰まらせ、ヨッコの手を握りしめた。気がつくと…どちらからともなく、しばらく隠していた涙を二人で流していた。
シイエとヨッコは幼い頃から姉妹のように育った。ヨッコがこの先幸せになるにはどうそたら…
「赤ちゃんの事奥様には話した?」
「いいや…奥様もあんなあるとに言いきらん…」
「馬鹿ね!こがん時やけんめでたい事は言うとばい…一緒に言うてやるけん早う!」
シイエはヨッコの手を掴み奥座敷へと走った。
「奥様っ!今お話しできますか?」
「いいですよ、どうしたの?お入りなさい」
部屋に入ると二人は押し問答だ。
「二人揃ってどうしたの?」
「ヨッコちゃん!ほら、自分で言うとよ」
シイエに促されヨッコはうつむいたまま言った。
「うん…あの…赤ちゃんができました…」
奥様の顔がぱあっと明るくなっていった。
「本当なの?」
奥様の言葉にヨッコが小さくうなずく。
「よかった、よかったヨッコちゃん!おめでとう…」
奥様は力一杯ヨッコを抱き締めて心の底から喜んだ。