戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

復興 四

    宴席に血相を変えて帰って来たシイエを見て、その場にいた全員が凍り付いた。

「ヨッコちゃ…」

    言いかけたところで源さんとシゲ、それに初五郎が飛び出してしまっていた。3人とも呆れるくらいに血の気が多いのだ。

    シイエがヨッコの手を取り台所に駆け付けた時には、3人の屈強な男達が番頭を押さえ付けていた。

    初五郎に至ってはシイエが襲われたと勘違いし、怒りから番頭の首を締め上げている。

    なんとかその場を抑えようと、シイエは力の限り叫んだ。

「ちがう!その人は番頭さんよ」

   シイエの叫びに一番驚いたのはやはりヨッコだった。シイエの顔と番頭の顔を交互に見てぽかんとしている。

    シイエの肘ががヨッコをつつく。

「ほら!旦那帰って来たとよ!番頭さんばい」

    ヨッコは裸足で外に降り番頭の顔を掴んだ。番頭の目を見て何度も何度もその顔を撫で、煤を拭っていった。

「あんたぁー!」

    ヨッコが叫んだと同時に、番頭はヨッコを力の限り抱き締めた。諦めかけていた再会の瞬間だ。    
 
 
    ヨッコは懐かしい腕のぬくもりを感じ、途端に涙が溢れた
。声をあげ、人目もはばからず…

    二人の姿を見て皆一様に涙がこぼれた。

    そんな中、奥様だけは複雑な表情でじっと立ち尽くしていた。奥様は様々な思いが頭の中で渦巻いていた。

    番頭さんは生きていた、皆喜んでいる…自分も嬉しいはずだ。

    しかし…番頭はなぜ一人なんだ…出かける時は二人だったはず…なぜ一人で帰ってきたんだ…