戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

田舎の花 一

    皆でこれからの事を真剣に話し合った。シイエは自分で花を作り売るという夢を諦めてはいないと、この時初めてヨッコに話してみた。

    初五郎は源さんの仕事がますます忙しくなり、その手伝いに走り回っている。

    街も少しずつ片付き、人々に花を愛でる気持ちが戻りつつあり、シイエは田舎の花を長崎の人にも見せたいと考えていたのだ。

    田舎の花にはそれにしかない魅力がある。スミレに山蘭…街では見掛けない花がたくさんあるのだ。シイエはこれをどうやって増やすか、そしてどうやって売るかあれこれ考えを巡らせていた。
 
    シイエはまず店にある花の苗を土で固めた。そこに苔を巻き付け苔玉を作って店先につるしてみた。

「これは…シイエちゃん売れるかもしれん」

    暮らしの中にささやかな癒しを人々は求めていた。苔玉はその手軽さからひとつ、またひとつ売れて行った。

    シイエは思った。

「これなら場所を取らずに田舎の山を再現できるかもしれない」

    シイエは田舎の花を一度見に帰る事にした。