田舎の花 二
シイエは一度田舎にもどることにした。
「子供らを頼みます、すぐに戻りますから」
「シイエ…大丈夫か?」
「子供らを頼みます、すぐに戻りますから」
思い立ったら動かずにはいられないのがシイエである。ヨッコとおキヨさんに子供を預け、シイエは原爆以来初めて田舎の土を踏んだ。
畑にはおかやんが汗まみれで仕事中だ。
「おかやーん!」
シイエの声に振り向いたおかやんはその場にへたりこんだ。当時の田舎にはまだ電話線がつながっていない。ラジオで長崎の原爆のニュースが繰り返し流されるうち、おかやんは娘達がみな原爆で亡くなったと思っていた。大事な娘達を奉公に出したことを心から後悔していたのだ。
「シイエー…シイエー…生きとったとかーシイエー」
おかやんはシイエにしがみつき大声で泣いた。
姉達とはまだ連絡が取れないとおとやんが力無く呟いた。
「シイエ…子供らは元気か?」
姉達とはまだ連絡が取れないとおとやんが力無く呟いた。
「シイエ…子供らは元気か?」
「初義は…死んだとよ…政雄と義輝は元気になった」
おかやんの泣く声がますます大きくなってゆく。
「なしてねぇ…はっちゃんがなしてぇ…」
おかやんの心はいろんな事が一度に押し寄せて張り裂ける寸前だ。しばらく初義のために泣いたかと思うと、シイエが生きていた事にまた泣いた。
おとやんが心配そうに言った。「シイエ…大丈夫か?」
「大丈夫!もう後戻りはできんけん!今日は仕事で来たとさね…」
シイエの力強い言葉を聞いたものの、おかやんもおとやんも少し淋しい想いがした。娘はいつまでも娘なのだ。こんなときくらい甘えて欲しいものだ。
そんな事を考えながら、シイエの強さを目の当たりにして少し安心もしていた。
「ちょっと山に行ってくるけんね!」
涙の再会もそこそこに、シイエは幼い頃のようにぽんぽんと山へ消えていった。
シイエは田舎の土と田舎の花で苔玉を作った。もうあの時の花を枯らしていたシイエではない。根を傷つけることのないようにひとつひとつ、丁寧に仕上げていく。
シイエは田舎の土と田舎の花で苔玉を作った。もうあの時の花を枯らしていたシイエではない。根を傷つけることのないようにひとつひとつ、丁寧に仕上げていく。
「シイエちゃん…やったね!これなら絶対売れるばいはよう店に持って帰ろう」
「うん、急がなきゃ!」
慌ただしい三日間が過ぎ、シイエは番頭と共に田舎を後にした。
「おかやーん!おとやーんまたくるけんね!」
シイエは二人が見えなくなるまで手がしびれるほど振り続けた。