田舎の花 三
店に戻ると皆が集まってきた。
山蘭やスミレ…街では見れない素朴な花達、シイエの田舎がその小さな苔玉に見事に再現されていた。ずっと長崎に居た奥様には興味深い仕上がりだった。
「かわいい…」
皆が口々にそう言って手に取って見とれていた。店先につり下げると、その珍しい花で固めた苔玉は飛ぶように売れていく。
店に遊びに来たおかっつぁまが苔玉をみるなり興味を示した。
「あら?これはなんね?かわいかね!根はあるとね?枯れんとやろうか」
そう言いながらくるくる回してみたりしている。
「根はありますよ!苔で土を固めてるんです」
「へーっ、帰りに一個もらうけんとっとってね!」
それから苔玉はあっという間に売れてしまったのだ。
とにかく苔玉は売れていた。売り切れてはまた田舎へ戻り、苔玉を作ってはまた店へ戻り売る。 シイエは花の季節が終わるまでしばらく田舎にとどまって仕事を続ける事になった。初五郎もちょうどその頃、田舎近くの工場を担当していたからだった。
シイエは田舎の人々を集め、たくさんの苔玉を作れる態勢を整えた。たくさんの人に支えられシイエの幼い頃からの夢は実現した。
辛いことばかりではあった。これから先もいろんな事があるだろう…しかし、シイエには初五郎も息子達もついている。お腹にはまた新たな命を宿し、シイエはようやく生きる希望をとりもどしつつあった。
これがシイエ23歳の春の話である。