見えない悪魔 三
源さんを中心としてシゲと初五郎それぞれが連携を取りながら事業を拡大していく中、ある日シゲが血相を変えて初五郎の元に駆け込んだ。
「初!あいつ夜逃げしやがった!もう金は入らんぞ!」
納金を踏み倒されたのだ。若い職人のひとりが独立をしたいと言い初五郎はあれこれ世話を焼いていた。軌道に乗るまではと仕事も回して借金の保証人にまでなっていたのだ。
入るはずの金が入らず借金まで負うはめになった初五郎達はあっという間に工場も家も取り上げられてしまった。
シイエと初五郎、そして7人の子供達は一瞬にして一文無しになった。一家は式見にぼろ屋を借りて窮屈な生活を始めた。また一からやり直しである。
シイエと初五郎、そして7人の子供達は一瞬にして一文無しになった。一家は式見にぼろ屋を借りて窮屈な生活を始めた。また一からやり直しである。
しかし、初五郎もシイエも笑っていた。
「騙されたばってん…信用したのは俺やけんなぁ…仕事はまだあるけん飯は食えるし」
金をばらまいて贅沢をしなかった事が思わぬ所で役にたった。
傍目から見ると不幸のどん底に叩き落とされた一家。しかし小さなぼろ屋にはその日から笑いが絶えなかった。 親が笑ってるのだから子供も笑っている、そんな単純なことだった。
子供らは雨が降る度に金たらいを持って走り回り、雨漏りの最初の一滴をつかまえると英雄扱いだ。お金があろうがなかろうが…家族は小さな楽しみを探す天才の集まりだった。
こうしておだやかな貧乏生活の中、子供らも順調に育っていった。