見えない悪魔 六
政雄の苦悩もまた見えない悪魔との戦いである。長崎にいたらこんな苦しみはなかったのかもしれない…被爆者は被爆者同士で結婚すべきなのだろうか。
数ヶ月後、政雄がついに倒れる。44歳だった。時を同じくして70代になった初五郎も病に倒れた。
少なくとも大阪の人間はそう考えているように思え、孤独感は痛いほどだった。
放射能の解明がまだ進まない時代、新天地を求めたたくさんの若者が同じ苦しみを味わっていたであろう。
そんな孤独も突然終わりを迎え、政雄は大阪で生涯最後の女性に出会い結ばれた。被爆者であることに引け目を感じる政雄に彼女は言った。
そんな孤独も突然終わりを迎え、政雄は大阪で生涯最後の女性に出会い結ばれた。被爆者であることに引け目を感じる政雄に彼女は言った。
「幸せか不幸かは私が決める事…私はあなたと生きます」
そうして女の子二人と男の子一人を次々と授かる。いずれも五体満足、政雄は心から安心した。しかし…幸せな時間は長くは続かなかった。その頃から政雄の体は徐々に蝕まれていたのだ。
政雄が最初に体の異変に気付いたのはまだ3人目の子供が幼い時期だった。結婚して工場を持ち独立してこれからという所だった。 朝目覚めると大量の出血で布団を汚していた。それは一日で治まるが病院へ行っても医師は頭をひねるばかりだった。
数ヶ月後、政雄がついに倒れる。44歳だった。時を同じくして70代になった初五郎も病に倒れた。
政雄は搬送先の病院で肺癌と診断される。
進行は恐ろしく早く、回復の見込みはなかったが、子供らがまだ幼かったためか政雄は生きるため頑張った。
そして3年の凄まじい闘病生活の後、47歳でその生涯を閉じる。幼くして受けた傷が原因であろうか…様々な合併症を引き起こし早すぎる死だった。