戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

見えない悪魔 七

    政雄の訃報を初五郎は病院のベッドで聞く事になった。点滴のチューブを引きちぎり着替えを始めようとしている。

「シイエ!喪服ば持って来い!」

    声を上げたものの、その場に倒れ込んだ。息子達がひきとめる。

「俺らが兄ちゃんはちゃんと送ってきてやる心配せんで休め」

「またか…また…親より先に逝ったのか…」

    そうつぶやく初五郎の手を握り、シイエはだまってうなづいた。それから初五郎の病気は急速に進行した。

    癌が見つかった時にはすでに遅く、すでに高齢と言われる年代にありながら、癌細胞は恐るべきスピードで初五郎をくらい尽くしていった。

    そして政雄の死からちょうど一年、政雄の後を追うように74歳で帰らぬ人となった。
 
    二人の死に立ち会ったシイエ、葬儀ではいずれも気丈に振る舞い涙は見せなかった。

    シイエが静かに瞼を閉じる…政雄と初義の手を引き花幸の前を通る初五郎の姿が鮮やかによみがえる…

    互いに深い愛情でつながれた家族は…出会いから四十数年でしばしの別れとなったのである。