さようならシイエ 四
火葬場では皆が時間一杯までシイエの顔を目に焼き付けようとしていた。孫達は手紙を棺に差し込んでいった。
煙草を嗜んでいたシイエのためか煙草も入れられたが、なぜか封が空いていた。孫の一人がライターを入れようとして注意をされている。
重い鉄の扉が閉じられると、その場にいた皆の感情は一気に爆発した。火葬が始まると、しばしの沈黙がおとずれた。
集骨室に親族が集められたが、そこにはあるはずのものがなかった。
「やっぱり残らんか…」
初五郎は遺骨を僅かに残していた。しかし、正雄は灰だけになっていた事から予想はできたことだった。
「原爆は骨も残さん…」
僅かに残った頭蓋骨も、竹箸を当てると崩れていった。唯一残った足の指、骨にガンが転位した場所だった。皮肉にもシイエの命を奪ったガン細胞は骨を残してくれたようだ。
息子らが手続きをしている隙に、孫達は外に集まり空を眺めていた。
「終わったね…」
「寂しいけど、もう苦しまんでよかもんね」
「さあて、孫には孫の…」
ライターを棺に入れようとして注意をされていた孫のポケットから、シイエ愛用のライターがだされた。
「煙草もばあちゃんからもろうたけんね」
「封が空いてたからおかしいと思った…」
成人した孫達は、一本のライターを囲み、一斉に火を着けた。
「ゲホッ…吸ったことないって言ってんのに…」
「供養だからさ、あはは、なんで泣いてんの…」
やがて目の前の煙も涙で滲んでいった。山奥の火葬場、煙草の香りには山百合の香りが混ざっているように感じた。
シイエが愛したあの山には、今も春になると一面に田舎の花が咲き乱れている。
煙草を嗜んでいたシイエのためか煙草も入れられたが、なぜか封が空いていた。孫の一人がライターを入れようとして注意をされている。
重い鉄の扉が閉じられると、その場にいた皆の感情は一気に爆発した。火葬が始まると、しばしの沈黙がおとずれた。
集骨室に親族が集められたが、そこにはあるはずのものがなかった。
「やっぱり残らんか…」
初五郎は遺骨を僅かに残していた。しかし、正雄は灰だけになっていた事から予想はできたことだった。
「原爆は骨も残さん…」
僅かに残った頭蓋骨も、竹箸を当てると崩れていった。唯一残った足の指、骨にガンが転位した場所だった。皮肉にもシイエの命を奪ったガン細胞は骨を残してくれたようだ。
息子らが手続きをしている隙に、孫達は外に集まり空を眺めていた。
「終わったね…」
「寂しいけど、もう苦しまんでよかもんね」
「さあて、孫には孫の…」
ライターを棺に入れようとして注意をされていた孫のポケットから、シイエ愛用のライターがだされた。
「煙草もばあちゃんからもろうたけんね」
「封が空いてたからおかしいと思った…」
成人した孫達は、一本のライターを囲み、一斉に火を着けた。
「ゲホッ…吸ったことないって言ってんのに…」
「供養だからさ、あはは、なんで泣いてんの…」
やがて目の前の煙も涙で滲んでいった。山奥の火葬場、煙草の香りには山百合の香りが混ざっているように感じた。
シイエが愛したあの山には、今も春になると一面に田舎の花が咲き乱れている。