戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

2014-10-18から1日間の記事一覧

夢にまで見た暮らし 三

おかやんが少し寂しげに呟いた。「おまえがお産の近うなったら行くけんな」「ありがとう、おとやんもおかやんも体に気をつけてね」 すぐに会えるのだからと、挨拶もそこそこにシイエは田舎を後にした。 長崎に戻るとハルがひとりで家を守っていた。またみん…

夢にまで見た暮らし 二

初五郎は本当に嬉しかった。しかし素直に喜べない自分もいた。「すまない…」「なぜあやまると…喜んでほしか」「嬉しか…嬉しすぎて震えとる…ただお前は初産だ…不安もあるやろう…なのに自分は」「あんたはお国から呼ばれたとやけん…大丈夫!立派に産んでみせ…

夢にまで見た暮らし 一

新しい暮らしが始まってもシイエは店の仕事は続ける事にした。 初五郎が戦場に行くことになっても、家族となったハルや政雄、初義を自分が守らねばと感じていたからだ。そのために少しでも貯えが欲しかったのだ。 二人の子供もすぐにシイエをお母さんと呼び…

出会い 四

朝は誰よりも早く起きて朝食の支度を済ませ、昼間は学校に工場、店の仕事に稽古まである。忙しい毎日に暇をみつけてはシイエは愛しい人の家へ通い続けた。 次第に彼の妹もシイエに気をゆるし自分達の事をあれこれシイエに話して聞かせた。彼女は名前をハル…

出会い 三

そんな中戦火は次第に激しさを増していった。女も例外なく国のための労働に駆り出される。シイエ達も兵器工場での労働を強いられた。 シイエは人殺しの道具を作るという仕事に違和感を覚えながら、しぶしぶ工場へ向かった。 シイエが辿り着いた工場にあの男…

出会い 二

シイエ達は仕事を終え、お嬢様のおかよと三人で稽古にでかけるのが日課となっている。三人で出掛けるのが忙しい毎日の中楽しみのひとつであった。 その日も稽古の帰りにまたあの男性と出会う。シイエと彼は二言三言交わして別れた。「ヨッコちゃん…あの人誰…

出会い 一

「おキヨさん、ちょっといいかしら!」 奥の部屋から奥様のおキヨさんを呼ぶ声がする。「はい、ただいま」 しばらくして奥様は喪服で現れた。「いってらっしゃいませ…」 シイエ達もおキヨさんと共に奥様を送り出す。「おキヨさん、奥様誰かのお葬式ですか?…

シイエの初恋 三

ある朝シイエが朝食の手伝いをしていると、外を掃除していたヨッコが血相を変えて入ってきた。「シイエちゃん!ちょっと…」「何ね?今忙しかと」「よかけん早う来んね」 ヨッコがシイエの腕を掴み外へ連れ出す。「あの人の奥さん亡くなったげな…」「うそや…

シイエの初恋 二

ヨッコに自分が抱える想いを話せた事でなんとなく楽になったシイエ。その後は毎日の仕事に追われ、その事はあまり考えないようになっていた。あの男性も店の前を通らなくなっていた。 ある日ヨッコが慌ただしく店に戻りシイエに言った。「シイエちゃん、あ…

シイエの初恋 一

あれから何度か春が来て…また冬がきて、季節がいくつかめぐり、二人の幼かった少女は立派な女性に成長していた。 その間、花幸の奥様は、花屋に奉公する以上はこれだけはとお茶にお花…果ては日本舞踊までふたりに稽古事をさせていた。 結果…十代も後半に差…