2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧
読んでいただきありがとうございました。 片足鳥居のすぐそばにシイエばあちゃんの墓はあります。ここにはハルさんの遺骨はありません。今も長崎のどこかで眠っています。 私は幼い頃、外に出るのが怖かった記憶があります。なぜなら、街に溢れる被爆者が怖…
火葬場では皆が時間一杯までシイエの顔を目に焼き付けようとしていた。孫達は手紙を棺に差し込んでいった。 煙草を嗜んでいたシイエのためか煙草も入れられたが、なぜか封が空いていた。孫の一人がライターを入れようとして注意をされている。 重い鉄の扉が…
自宅に帰ると孫達、仲間達が次々に訪れた。体調を気遣い短時間で切り上げる者が多かったが、その度にシイエは寂しげな表情を浮かべた。 それから約一か月、シイエは最後の時を迎える。自宅で意識を失い救急車で病院に搬送された。 死の直前シイエの体は激し…
いつものように自転車にまたがりゲートボール場を目指すシイエ。いつものように仲間と笑い合い、穏やかな時間が過ぎていった。 シイエは広場の真ん中に突然倒れ込んだ。シイエ二度目の癌の発症である。この時初五郎の死から12年が経過していた。 近くには義…
長崎県大村市、ここに初五郎とシイエの終の住処があった。子供らが独立後年老いた二人は隠居生活を始めたのだ。 いつの間にか孫は15人にまで膨れ上がり、夏休みともなると三部屋しかない小さな家は子供達でぎゅうぎゅうづめだ。 シイエは布団の上で暴れる子…
政雄の訃報を初五郎は病院のベッドで聞く事になった。点滴のチューブを引きちぎり着替えを始めようとしている。「シイエ!喪服ば持って来い!」 声を上げたものの、その場に倒れ込んだ。息子達がひきとめる。「俺らが兄ちゃんはちゃんと送ってきてやる心配…
政雄の苦悩もまた見えない悪魔との戦いである。長崎にいたらこんな苦しみはなかったのかもしれない…被爆者は被爆者同士で結婚すべきなのだろうか。 少なくとも大阪の人間はそう考えているように思え、孤独感は痛いほどだった。 放射能の解明がまだ進まない…
政雄の人生もまた波乱の連続であった。政雄の繊細さは中学に上がる頃加速していった。政雄は腹違いを気にして周りを気遣い、15歳で家を飛び出したのだ。 シイエはもちろん子供達を差別したことなどたかったが、そこは思春期に自分の存在を考え始める時期の…
虚勢を張るも、初五郎は父親としての葛藤に苦しんでいた。家族にひもじい思いをさせる日が来るのではないかと危機感に苛まれていたのだ。 それでも子育てで働けないシイエは、毎日額に汗して働く初五郎を尊敬しており、何より皆を守ってくれているのは初五…
源さんを中心としてシゲと初五郎それぞれが連携を取りながら事業を拡大していく中、ある日シゲが血相を変えて初五郎の元に駆け込んだ。「初!あいつ夜逃げしやがった!もう金は入らんぞ!」 納金を踏み倒されたのだ。若い職人のひとりが独立をしたいと言い…
大切な存在を立て続けに失ない、シイエの心は限界だった。悪夢にうなされては目を覚まし、シイエは家事も仕事も手に付かず話す事もやめてしまった。 その間初五郎はシイエの代わりに子供らの面倒をみ、床にふせったシイエの世話も献身的にこなしていた。 初…