見えない悪魔
政雄の訃報を初五郎は病院のベッドで聞く事になった。点滴のチューブを引きちぎり着替えを始めようとしている。「シイエ!喪服ば持って来い!」 声を上げたものの、その場に倒れ込んだ。息子達がひきとめる。「俺らが兄ちゃんはちゃんと送ってきてやる心配…
政雄の苦悩もまた見えない悪魔との戦いである。長崎にいたらこんな苦しみはなかったのかもしれない…被爆者は被爆者同士で結婚すべきなのだろうか。 少なくとも大阪の人間はそう考えているように思え、孤独感は痛いほどだった。 放射能の解明がまだ進まない…
政雄の人生もまた波乱の連続であった。政雄の繊細さは中学に上がる頃加速していった。政雄は腹違いを気にして周りを気遣い、15歳で家を飛び出したのだ。 シイエはもちろん子供達を差別したことなどたかったが、そこは思春期に自分の存在を考え始める時期の…
虚勢を張るも、初五郎は父親としての葛藤に苦しんでいた。家族にひもじい思いをさせる日が来るのではないかと危機感に苛まれていたのだ。 それでも子育てで働けないシイエは、毎日額に汗して働く初五郎を尊敬しており、何より皆を守ってくれているのは初五…
源さんを中心としてシゲと初五郎それぞれが連携を取りながら事業を拡大していく中、ある日シゲが血相を変えて初五郎の元に駆け込んだ。「初!あいつ夜逃げしやがった!もう金は入らんぞ!」 納金を踏み倒されたのだ。若い職人のひとりが独立をしたいと言い…
大切な存在を立て続けに失ない、シイエの心は限界だった。悪夢にうなされては目を覚まし、シイエは家事も仕事も手に付かず話す事もやめてしまった。 その間初五郎はシイエの代わりに子供らの面倒をみ、床にふせったシイエの世話も献身的にこなしていた。 初…
その後シイエは24歳で初めての女の子を産み、順風満帆かと思われた。戦後の混乱から入籍をしていなかった事に気がついた二人は、シイエの両親に改めて挨拶に行こうということになる。 シイエ達は長崎で相変わらず忙しい毎日を過ごし、なかなかシイエの実家…