夢にまで見た暮らし 二
初五郎は本当に嬉しかった。しかし素直に喜べない自分もいた。
シイエは涙を見せなかった。必ず生きてまた会えるのだから…それだけを信じて。
しばらくしてシイエの元に奥様からの返事が届く。そこに書かれていた事にシイエは声をあげて驚いた。
「すまない…」
「なぜあやまると…喜んでほしか」
「嬉しか…嬉しすぎて震えとる…ただお前は初産だ…不安もあるやろう…なのに自分は」
「あんたはお国から呼ばれたとやけん…大丈夫!立派に産んでみせます」
そう言って笑顔を見せるシイエを、初五郎は力の限り抱き締めた。言葉を詰まらせる初五郎にシイエは涙をこらえ初五郎の腕の中、消え入りそうな声で呟いた。
「そのかわり…生きて帰ってください…」
それから初五郎は慌ただしく店に連絡をとりシイエが安心して休める手筈を整えた。シイエも奥様に手紙を書きしばらく初五郎の息子達と田舎暮らしを楽しむ事となる。
それから初五郎は慌ただしく店に連絡をとりシイエが安心して休める手筈を整えた。シイエも奥様に手紙を書きしばらく初五郎の息子達と田舎暮らしを楽しむ事となる。
そして初五郎はシイエの田舎の人らに見送られ出征していった。
シイエは涙を見せなかった。必ず生きてまた会えるのだから…それだけを信じて。
なんとヨッコちゃんと番頭さんが結婚したというのだ。おかよさんにもいい縁談があり花幸は連日のお祝いに湧いていた。
シイエはなにかある度に奥様へ手紙を送った。何通かやりとりをしているうちにヨッコちゃん夫婦が奥様の手紙を携えて田舎を訪れる。
シイエ達が心配だったこととヨッコちゃん自身も育ててくれたおんじい達に番頭さんを紹介したかったからだ。
奥様の返事は長崎の病院で出産しなさいという内容だった。二人の子供がいて赤ちゃんとなるとお母様が大変でしょうとも書かれていた。
確かにおかやんにかかる負担を考えると長崎へ行き奥様に甘えるのがいいように思われ…シイエは長崎へ戻る事を決めた。
しかし…
この判断が後に運命を左右する事になろうとは誰一人想像もしていなかった。