見えない悪魔 二
大切な存在を立て続けに失ない、シイエの心は限界だった。悪夢にうなされては目を覚まし、シイエは家事も仕事も手に付かず話す事もやめてしまった。
その間初五郎はシイエの代わりに子供らの面倒をみ、床にふせったシイエの世話も献身的にこなしていた。
初五郎の暖かい愛情に支えられ、シイエの悲しみは長い時間をかけて少しずつ癒されていった。 徐々にシイエが元の生活をとりもどしていく。
「シイエ…もう大丈夫やな?しっかりせろ、腹に子供もおるやろうが、他の子もおる…おまえがしっかりしてくれんと」
「あんた…もう大丈夫迷惑かけてすんません、さあ!かあちゃん元気だすけんね」
そう言うと政雄を膝に乗せ抱き締めた。そしてその年の10月に男の子を産んだ。その後の生活は順調だった。 それからシイエは30代半ばまでに男二人女一人を産み、政雄を入れてなんと7人の母親になったのだった。
7人の子供を育てるために二人は一生懸命働いた。しかし初五郎は人が良過ぎたようだ…
その間初五郎はシイエの代わりに子供らの面倒をみ、床にふせったシイエの世話も献身的にこなしていた。
初五郎の暖かい愛情に支えられ、シイエの悲しみは長い時間をかけて少しずつ癒されていった。 徐々にシイエが元の生活をとりもどしていく。
「シイエ…もう大丈夫やな?しっかりせろ、腹に子供もおるやろうが、他の子もおる…おまえがしっかりしてくれんと」
「あんた…もう大丈夫迷惑かけてすんません、さあ!かあちゃん元気だすけんね」
そう言うと政雄を膝に乗せ抱き締めた。そしてその年の10月に男の子を産んだ。その後の生活は順調だった。 それからシイエは30代半ばまでに男二人女一人を産み、政雄を入れてなんと7人の母親になったのだった。
7人の子供を育てるために二人は一生懸命働いた。しかし初五郎は人が良過ぎたようだ…
工場が軌道に乗った頃は家族は裕福な暮らしができていた。戦後の混乱から一足先に抜け出したわけである。そんな中食うに困った人々が、知り合いでなくとも初五郎の元に金の無心に訪れる。
「必ず返します」
「ええ…待ってます」
初五郎は借用書を一切書かなかった。
「返してくれたら儲けたい、本当に困っとるやつには別に返してもらわんでもよか!うちは贅沢せんなら食べて行ける…」
シイエも初五郎の考えに文句ひとつ言わなかった。自分達が困った時にはあんなにたくさんの人達に助けられた。
二人はそれを忘れてはいなかった。
初五郎がしたのはそれだけではなかった。血の気の多い若い衆を束ねる立場にあった初五郎は、連日家に独り身の職人達を呼んでは酒をふるまい、腹いっぱい食事を出していた。
初五郎がしたのはそれだけではなかった。血の気の多い若い衆を束ねる立場にあった初五郎は、連日家に独り身の職人達を呼んでは酒をふるまい、腹いっぱい食事を出していた。
支度は全てシイエがしていた。シイエもぶつくさ言いながらもそれなりに楽しんでいる。
ある者に子供ができたと言えば大金を持たせ、親が死んだと聞けば花幸から一番高い花を送った。家もあるし贅沢はできないが家族みんな元気だ。シイエはそれだけで満足していた。やがて鉄工所の社長という地位を築いた初五郎ではあったが、家族全員「金」への執着は皆無だった。