長崎での暮らし 一
朝の光が二人の少女の顔を眩しく照らす。長崎での暮らしが始まったのである。
「うーん…シイエちゃん起きらんばばい」
「うん…わかっとるばってんさぁ…布団の気持ちよかけん起ききらんとさね」
「そうさね、これから寝るとも楽しみになるばいね」
布団の中でそんな会話を交わしているとおキヨさんの声がした。
「二人とももう起きなさい、今日から私の手伝いをしてもらいますよ皆が起きる前に支度せんばいかんとよ」
「はーい!」
二人は布団を片付けおキヨさんの後ろからついていった。
おキヨさんの指示が飛ぶ。「あなたたちは土間と板の間の掃除をお願いね。私は食事の支度をするから」
そう言うとおキヨさんは台所の方へ、二人は言われた通りに土間と板の間を掃除した。
「朝からこんだけ一人でしよったとばいね…おキヨさんきつかったばいね、えらかね」
「本当ね、広かけん掃除だけでもきつかよね」
支度ができた頃に皆が起きてきてそれぞれの席に座ってゆく。上座に奥様と旦那様が腰掛けて二人に奥様が声をかけた。
「おはよう。よく眠れましたか?」
「うん、おはようございます!フカフカの布団で気持ちよかったもんねヨッコちゃん」
「そう、良かったわね。でもね、これから返事をするときはうんではなくはいとおっしゃいね」
「うん、あ…いけん…はいわかりました」
皆が笑った。
「それでは朝ご飯いただきましょう」
シイエ達は旦那様を気にしながら軽く十字をきって手を合わせた。
この店では皆で揃って食事をとる。奉公人たちも一緒だ。別々に食べるのは時間の無駄だというのが旦那様の考えだという。