長崎での暮らし 二
食事も終わりに近付き奥様が口を開いた。
番頭さんは、二人を見ながら自らをふりかえっていた。番頭さんもまた、幼くして親元を離れ奉公に出ていたからだ。とはいっても番頭さんもまだ十代の若者。
このころはまだ、辛うじて十代の若者は戦地に送られることはなかった。
「いこうか?」
「食事が終わったら番頭さんと一緒にこの辺りを教えてもらいなさいね。ゆっくり回ってらっしゃい」
「得意先回るとも忘るんなよ」
旦那様も番頭さんに言った。
「はい…旦那様わかっております」
二人は店を出て近所の人に今日から「花幸」で奉公をすると挨拶をして回った。その度に番頭さんが二人を紹介した。
外に出て番頭さんは笑顔で手招きをして二人を呼び寄せた。そこには石造りの立派な橋がかかっていた。
「ほら!あん橋ばみてみろ!メガネんごと見えるやろが」
シィエ達が川を覗きこむと橋が水面に映りメガネの形に見えている。
「あ!本当だ!ヨッコちゃんみてメガネばい」
「本当だ!メガネんごたる」
二人は珍しそうにいつまでも橋を眺めていた。
番頭さんは、二人を見ながら自らをふりかえっていた。番頭さんもまた、幼くして親元を離れ奉公に出ていたからだ。とはいっても番頭さんもまだ十代の若者。
このころはまだ、辛うじて十代の若者は戦地に送られることはなかった。
「いこうか?」
番頭さんはそう言うと中の通りという商店街へ二人を連れていった。下駄屋に着物屋…風呂敷屋にお菓子屋さんまでいろいろな店が軒を連ねる。
二人は珍しくてキョロキョロしていた。時折番頭さんが声をかけられる。
「あら?新しい子ね?」
番頭さんはその都度二人を丁寧に紹介してまわった。
丸山という綺麗な着物をきた人がたくさんいる場所に来た。
「ここにも花ば持ってくるけん覚えとけぞ」
番頭さんはそう言うと大きな料亭へと入っていった。