戦後70年 原爆の日を前に

【田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ】を無料でお読みいただけます。カテゴリーを下より順にご覧下さい。My father is a victim of nuclear weapons.

悲しみの再出発 二

    ただただ漠然と先の事を考えてみるも何も浮かぶはずもない。

    そんな毎日がいくらか続いたある日、シイエ達の前に一人の男が現れた。男は二人を見るなり安堵の表情を見せた。

「やっとみつけました!ご無事で何よりです」

「シゲさん!生きていたんですね!」

    その時ようやくシイエは店やヨッコちゃん達の存在を思い出す。あまりにも過酷な毎日に、もう誰もいなくなったと思い込んでいたのかもしれない。

     源さんに奥様、自分達を案じて探してくれていた人達がいる。それがどんなに心強いことか…皆の安否を気にして一瞬顔が曇るシイエにシゲは続けた。

「花幸の奥様があなたを心配しています、一緒に来てください」

「奥様はご無事ですか!元気なんですか?」

「はい、元気です、店もあります」

    シイエは心から安堵した。こんな気持ちはどれくらいぶりだろうか…二度と大事な者を亡くしたくはなかったのだ。 
 
     シゲの申し出を受け、シイエは初五郎の顔へと視線を流した。初五郎はだまってうなずいている。

    シイエはシゲについて行く意思を伝えると、義輝を抱えて初五郎の前に出た。

「まずは私が行って話を聞いてきますね…この子はお乳がいるから…連れていきますので政雄をお願いします」

    そう伝えるとシゲと共に花幸を目指した。