奥様の顔 三
いつものように上得意には国夫自らが出向く予定にしていた。
「幸枝、羽織りを出してくれ」
幸枝は何やら考え込んでいる。
「幸枝!羽織り」
「あ…はいはい、あなた…その花私に持って行かせてくれないかしら?」
「お前がか?俺はありがたいがお前がおかっつぁまに嫌味ば言われるとぞ」
「構いません…おかっつぁまの嫌味も久しぶりに聞きたいですし!では私が支度してきますね」
幸枝は久しぶりに上等の着物に着替えて番頭を待った。百合をたくさん抱えて番頭が声をかける。
「旦那様行かれますか?」
現れたのが幸枝であったので番頭はびっくりした。
「奥様が行かれるんですか?」
「私ではダメかしら?ついてきてくれますね」
「もちろん…はい」
「幸枝…頼んだぞ、おかっつぁまによろしくな」
国夫が二人を送り出す。
「わかりました、いってまいります」
二人はたくさんの百合を抱えおかっつぁまの料亭を目指した。
番頭を従え幸枝はおかっつぁまの元へ。「ごめんくださいませ…花幸でございます、ご注文の品お持ちいたしました、おかっつぁまいらっしゃいますか?」
「はーい!あら、その声はお幸さんじゃないの、まあ珍しか、元気やったとね?随分ご無沙汰じゃあなかね…たまには顔出してくれんね」
「ご無沙汰して申し訳ありません…元気でやっております、この度はたくさんのご注文感謝します」
「なんね?そげん改まって…でもよく揃えたね、あたしも時期外れやしそげん香りねきつか花ば料理と…って考えたとけど遣いの人がちょっと怖いお兄さん達やったけん断りきらんやったとよ」
「いいえ…それは構いませんが、時期が時期ですのであまり良いものではないんですよ…このくらいで大丈夫でしょうか」
「いいわ!上等たい」
「それではお部屋の方へ生けさせていただきますね、どの部屋でしょう」
「京の間よ、わかるわよね?」
「はい、わかります、では番頭さんお願いします」。
お客様が来る前に仕上げなければならない。二人は早速仕事に取り掛かった。