原爆の惨劇 三
泣き声を頼りに義輝を探すシイエ。あの瞬間、確かにその腕に抱いていた。泣き声は床下から聞こえていた。
シイエは狂ったように瓦礫を掻き分け義輝を引っ張り出した。まだ生まれて二か月の義輝は首が座っていない。義輝の首は背中につくかというくらいに曲がってしまっているように見えた。慎重に首に手を添えると、義輝はさらに大きな声で泣き始めた。
しかしあと三人…政雄と初義とハルの姿が見えない。
「政雄!初義!ハルちゃん!」
シイエはちからの限り名を呼び続けた。木の上にいた二人が下に落ちうずくまっているのが見えた。シイエはいそいで二人の元へ這っていった。
ようやく二人の元へ辿り着いたシイエは我が目を疑った。政雄も初義もひどいやけどを負っていたのだ。政雄は立ち上がり、ひどく混乱していた。
ようやく二人の元へ辿り着いたシイエは我が目を疑った。政雄も初義もひどいやけどを負っていたのだ。政雄は立ち上がり、ひどく混乱していた。
「かあちゃん、はっちゃんは、はっちゃん…はっちゃん死んだと?」
初義の怪我にシイエは絶句する。顔は原形をとどめず、服は焼け残りがわずかに体に貼り付いており、なにより本を読んでいた状態で熱風を浴びたため、四肢が胴体についたままの状態で、達磨のように固まってしまっていたのだ。
手足を伸ばそうにも完全に一体化しており、その手足を剥そうとすると激痛に襲われるためどうすることもできないのだ。
政雄は叫び続けていた。
「はっちゃん死んだ…かあちゃん!かあちゃん!」
「馬鹿な事ば言わんとよ!死ぬもんか」
「はっちゃん…」
シイエは初義の頬を叩いてみた。 叩こうにも皮膚がボロボロと崩れていく。揺さぶると呼吸はしていた。
「このままでは死んでしまう…」
シイエはやむを得ずハルを探すのを諦め、ダルマのように丸くなった初義を抱えてその場を離れた。
焼け残りから見つけた切れっ端で背中には義輝を背負い、両手で初義を抱えて歩くシイエ。政雄を連れて山の方へと逃げるも山も火が回りはじめていた。 また下へ降り人を探すも、あたりには息がある人はほとんど居ない。山を下るほど焼け焦げた遺体の数は増えるばかり。あまりの光景にシイエは政雄に言った。
「空を見ていようね…母ちゃんにつかまってなさい」
焼かれた土地を裸足で歩き、足の裏はもう感覚がないくらいに焼けただれていた。政雄はもう歩けないと泣き出してしまった。
政雄の手を引っ張り、比較的温度が低い畑を飛びながら移動していった。
「この子らを死なせるわけにはいかん」
自分一人なら…諦めて死んでいただろう。しかし、シイエは生きる事に必死だった。この時シイエはまだ二十二歳である。
幸せな時間が一瞬にして崩れ去り、若い母親にはあまりにも辛い現実がのしかかってきたのだ。
幸せな時間が一瞬にして崩れ去り、若い母親にはあまりにも辛い現実がのしかかってきたのだ。