復興 五
そんな奥様の様子を源さんだけは見逃さなかった。すかさず視線を向けた。
「ヨッコちゃん…番頭さんをお風呂にいれてあげなさい」
ヨッコはその一言ですべてを悟り、静かにうなづくと番頭を奥へ連れて行った。奥様はその場にへたりこんでしまった。
「大丈夫か?びっくりしたなあ…」
「大丈夫です!よかった…本当によかった」
奥様は自分に言い聞かせるように何度も何度も繰り返していた。
程なくして、身なりを整えた番頭がヨッコと共に皆の前に現れた。奥様の前までいくと畳に頭をこすりつけ、必死の様子で言葉を絞り出していった。
程なくして、身なりを整えた番頭がヨッコと共に皆の前に現れた。奥様の前までいくと畳に頭をこすりつけ、必死の様子で言葉を絞り出していった。
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
「番頭さん…生きててよかった…」
「ヨッコから赤ん坊の話は聞きました…皆さんでお祝いをしてくれてたと…本当にありがとうございます」
「そうね…あなたもがんばらなきゃね」
そこまで話したところで番頭は握っていた布を奥様に差し出す
「申し訳ありません…」
「なんです?」
「あの日…あの時確かに旦那様は自分のそばにおりました…でも…自分が目を覚ました時には居なかったのです…今までずっと探しておりました…旦那様が居た場所にこれが落ちておりました…どこをどう探しても旦那様は見つからないのです」
番頭が差し出した布きれは、出かける時に奥様が旦那様に着せた羽織りの焼け残りだった。
奥様はだまってその布きれを抱き締めると、黙って立ち上がり、その場を離れた。「お幸…」
源さんは皆を気遣い声をかけたが、それ以上は何も言えなかった。
「大丈夫です、しばらく一人にしてください…お願いします」
「お母様…」
奥様の後を追うかよの腕を掴み、おキヨさんがひきとめる。
「今は一人にしてあげましょう」
奥様は奥座敷の襖を閉めると、無言で大粒の涙を流した。皆に聞こえないように…
どこかで生きているかもしれないという想いがあり、逆に奥様を苦しめ続けていたのだ。様々な想いにしばらく涙は止まらなかった。
奥様としてではなく、幸枝として…愛する国夫を思い流した涙だった。