悲しみの再出発 一
初五郎は初義の最後を看取り、そのまま外へ出て三日間行方がわからなくなった。シイエはその事を気にもとめなかった。ただただ姿が変わってゆく初義のそばで一日一日を呆然と過ごした。
政雄が初義を抱く初五郎の顔を覗き込む。
時折初義の亡骸を抱き締めては、その冷たさに恐ろしい距離を感じ打ちのめされていくシイエ。なにもできなかった。
そして…なにも感じなくなった。
初義亡きあと姿を消していた初五郎が、三日後病院へ戻った。シイエは初義が亡くなった時のまま三人の子供のそばにいた。
初義亡きあと姿を消していた初五郎が、三日後病院へ戻った。シイエは初義が亡くなった時のまま三人の子供のそばにいた。
初五郎が戻った時、シイエは政雄の脇に這いつくばり、うなりながら何かをしていた。政雄の傷口から黙々と蛆を摘み出していたのだ。
「シイエ、ほら!しっかりせろ…ここを出るぞ、このままでは皆死んでしまう」
事実この頃、病院では無傷の者達までもが原因不明のまま次々と命を落としていた。
初五郎は姿を消してから約三日かけ、付近の廃材を集め小さな小屋を作っていたのだ。初五郎がぼんやりするシイエの肩を叩く。
「さあ…義輝ば抱け、初義は俺が抱く…政雄は歩けるな?」
シイエは義輝を抱き、政雄の手を引いて初義を抱く初五郎の後ろをついていった。こうして長かった病院での日々は終わった。
初五郎は生きる気力を無くしたシイエと息子らを、自分がしっかりと支えなければと必死だった。政雄が初義を抱く初五郎の顔を覗き込む。
「おとうちゃん、はっちゃんは死んだと?なんで死んだと?」
「原爆に殺されたとさ」
「原爆ね、おそろしかね」
政雄はあまり理解できていないようだった。そうしてまた長い時間歩いて家族は初五郎が建てた小屋に辿り着いた。
中に入ると空気がひんやりとして気持ちよかった。病院のような悪臭もない。
中に入ると空気がひんやりとして気持ちよかった。病院のような悪臭もない。
初五郎はゴザを敷き、そこに初義を寝かせた。シイエも義輝を下ろし皆その場にへたりこんだ。
「なんで…なしてこがん事になったとやろか…この子がなんばしたとね?なんでこがん惨い死に方せんばとね…嘘ば言うた…長崎には落ちらんて…嘘ば言うてしもうた」
シイエは独り言のように言い続けた。初五郎も同じ気持ちだ。しかしこのままでは…初義はきちんと送ってやらなければならない。
それまで黙りこんんでいた初五郎が口を開いた。
「シイエ…初義ば皆で葬ってやろう…」
それまで黙りこんんでいた初五郎が口を開いた。
「シイエ…初義ば皆で葬ってやろう…」
初五郎は何かを振りきるように淡々とシイエに指示を出していった。シイエも言われるがままに辺りから細かい木ぎれを集めてきた。
畑の真ん中に木材を積み上げ、その上に初義を丁寧に寝かせた。
「痛かったろう…はつ…」
「お父ちゃん、はっちゃんどうすると?もう遊べんと?」
「そうだ…これが最後…」
それぞれが初義の顔を撫でていった。そして、初五郎は震えるシイエに代わり無表情で火を放った。
「お父ちゃん、はっちゃんどうすると?もう遊べんと?」
「そうだ…これが最後…」
それぞれが初義の顔を撫でていった。そして、初五郎は震えるシイエに代わり無表情で火を放った。
燃え上がる初義の姿を見てもう誰も涙も出なかった。
炎を見ながら立ちすくむ、抜け殻のような日々が何日か過ぎていったある夕方の事だった。